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不適切な生成AIの使用に対するUSPTOの懲戒命令
米国内においても企業の知的財産部や法律事務所は、特許明細書の作成や権利化手続きを迅速化するために生成AI(Artificial Intelligence)を導入しています。生成AIは効率化をもたらす一方、生成AIの使用は、精度の問題や倫理的責任を生じさせるため、AIツールの導入には、これらのことを考慮する必要があります。
2026年8月27日、米国特許商標庁(以下、USPTO)は、ある特許侵害訴訟[1]で裁判所に提出された書類に不正確な記載が含まれていたとして、米国特許弁護士A(以下、弁護士A)を戒告処分とする懲戒命令[2]を公表しました。特に、弁護士Aは特許の特定のクレーム用語に対するクレーム解釈案を記載したクレームチャートの作成に第1の生成AIツールを使用しました。その後、弁護士Aは、作成したクレームチャートに誤りがないかを確認するために第2のAIツールを使用しました。正式に提出されたクレームチャートのうち、AIで生成された部分には、明細書、図面及び審査経過を含む特許の内在的証拠(intrinsic evidence)の引用が含まれていました。これらの引用の多くには、実際には存在しない記録や、引用元が誤っているものが含まれていました。不正確な点に関する通知を受けたのち、弁護士Aは、独自にクレームチャートを確認し、速やかに訂正版のクレームチャートを提出しました。その後、当事者間での和解が成立したため、本訴訟は取り下げられました。
弁護士Aが誤りを訂正する措置を行ったにも関わらず、USPTOの登録・懲戒局(Office of Enrollment and Discipline)は、弁護士AをUSPTOの職業倫理規則の複数の条項に違反したとして、公開の勧告処分を下しました。特に、USPTOは、弁護士Aが、AIを活用した法的調査や文章作成ツールのリスクを十分に理解していなかったこと、かつ裁判所への書類の提出前に、特許明細書、図面及び審査経過の引用を適切に確認しなかったことから、弁護士Aが相当な注意義務(Reasonable Diligence)を果たさず、かつ重大な虚偽説明(Material Misrepresentation)を行ったと判断しました。
生成AIツールは、明細書や先行文献の内容を誤って引用したり、当初明細書にサポートされていない、あるいはその他の特許要件に関する形式的要件を満たさないクレーム補正案を提案するおそれがあります。さらに、生成AIツールは、判例の引用、引用文、事実認定及び法的議論をしばしば省略、誤記載、または完全に捏造することがあります。このような情報をUSPTOに提出することは、代理人や出願人が行政上の懲戒処分を受けるおそれや、登録された特許が権利行使不能となる状態にさらすおそれがあります。本懲戒命令は、「2024 Guidance on Use of Artificial Intelligence-Based Tools in Practice Before the United States Patent and Trademark Office[3]」でも述べられているように、書類の作成にAIツールを用いる場合、書類を提出する当事者は、書類中のすべての事実及び記載が真実であり、かつ証拠によって裏付けられていることを確認するために、提出する書類を精査しなければいけないことを改めて示すものです。
参考リンク
本懲戒処分及び2024年のガイダンスは以下のリンクからご覧になれます。
http://foiadocuments.uspto.gov/oed/Mitchell-Order-D2026-16-Redacted.pdf
[1] Magpul Industries Corp. 対 Mission First Tactical Group, Inc. ほか、事件番号 2:24-cv-5551(ペンシルベニア州東地区連邦地方裁判所、2025年7月28日)
[2] Brian E. Mitchell事件、USPTO登録・懲戒局 懲戒手続番号D2026-16(2026年7月27日)
[3] USPTOにおける実務におけるAIベースのツールの使用に関する指針 (Guidance on Use of Artificial Intelligence-Based Tools in Practice Before the United States Patent and Trademark Office)、89 FR 25609(2024年4月11日)
- 本欄の担当
- 弁理士法人ITOH
所長 弁理士 伊東 忠重
副所長 弁理士 吉田 千秋
担当: 弊所米国オフィスIPUSA PLLC
米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 加藤奈津子