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印刷物の法理に関する連邦巡回控訴裁判所(CAFC)判決について

(Praxair Distribution, Inc. v. Mallinckrodt Hospital Products IP Ltd. (Fed. Cir., May 16, 2018))

 2018年5月16日付で、連邦巡回控訴裁判所(以下CAFC)により、印刷物の法理に関する判決が出されました。

 本判決は、印刷物の法理の適用に関するものです。クレーム中で情報の内容が規定されている場合、そのようなクレーム中の限定は「印刷物(printed matter)」に該当するとされます。印刷物の法理に関する初期の判例では、文字通り印刷物を含むクレーム(例えば、発音に従って配置された辞書に関するクレーム)が扱われていましたが、近年では、情報が物理的に印刷されていないような状況をも対象とするように法理は発展してきています。印刷物の法理によれば、印刷物がクレーム中の他の部分と機能的な関係を有していない限り、印刷物に関する限定は特許性判断において無視されると定められています。

<背景>

 Mallinckrodt Hospital Products IP Ltd.(以下“Mallinckrodt”)は、米国特許第8,846,112号(以下「112特許」)の特許権者である。112特許は、医薬品用途として一酸化窒素ガスを配布する方法に関する。一酸化窒素を投与すると、肺の血管が拡張して血液による酸素供給が改善されるが、有害な副作用が引き起こされる可能性がある。112特許のクレームにおいては、医療提供者に一酸化窒素ガスのシリンダーを供給すると共に、臨床研究で特定されたタイプの患者に対する有害な副作用に関する処方情報を医療提供者に提供することが規定されている。112特許の請求項1及び9を以下に示す。

1. A method of providing pharmaceutically acceptable nitric oxide gas, the method comprising:
obtaining a cylinder containing compressed nitric oxide gas in the form of a gaseous blend of nitric oxide and nitrogen;
supplying the cylinder containing compressed nitric oxide gas to a medical provider responsible for treating neonates who have hypoxic respiratory failure, including some who do not have left ventricular dysfunction;
providing to the medical provider (i) information that a recommended dose of inhaled nitric oxide gas for treatment of neonates with hypoxic respiratory failure is 20 ppm nitric oxide
and (ii) information that, in patients with pre-existing left ventricular dysfunction, inhaled nitric oxide may increase pulmonary capillary wedge pressure (PCWP), leading to pulmonary edema, the information of (ii) being sufficient to cause a medical provider considering inhaled nitric oxide treatment for a plurality of neonatal patients who (a) are suffering from a condition for which inhaled nitric oxide is indicated, and (b) have pre-existing left ventricular dysfunction, to elect to avoid treating one or more of the plurality of patients with inhaled nitric oxide in order to avoid putting the one or more patients at risk of pulmonary edema.

9. The method of claim 7, further comprising:
performing at least one diagnostic process to identify a neonatal patient who has hypoxic respiratory failure and is a candidate for inhaled nitric oxide treatment;
determining prior to treatment with inhaled nitric oxide that the neonatal patient has pre-existing left ventricular dysfunction;
treating the neonatal patient with 20 ppm inhaled nitric oxide, whereupon the neonatal patient experiences pulmonary edema; and
in accordance with the recommendation of (iii) [注:(iii)はクレーム7に規定されている], discontinuing the treatment with inhaled nitric oxide due to the neonatal patient’s pulmonary edema.

 Praxair Distribution、Inc.(以下“Praxair”)は、112特許の当事者系レビュー(inter partes review)を請求した。当事者系レビューにおける審理の結果、審判部は、クレーム1~8及び10が従来技術から自明であり、クレーム9及び11は自明ではないと判断した。この判断に際し、審判部は、印刷物の法理を適用した。審判部は、情報提供、評価、及び推奨に関する各クレーム中の限定は、クレーム9を除き、クレーム中の他の限定との機能的な関係を有しておらず、印刷物又は純粋な精神活動に該当し特許性判断において無視される、と解釈した。またクレーム9については、“in accordance with the recommendation of (iii)”が推奨に関する限定に対する機能的な関係を提供している、と解釈した。両当事者はこれらの審決に対してCAFCに上訴した。

<CAFC判決>

 クレーム1~8及び10に関して、Mallinckrodtは、審判部が、人の精神活動を規定したクレームの限定に対して印刷物の法理(限定が特許性判断において無視されるとの扱い)を拡張適用したことは誤りである、と主張した。これに対してCAFCは、精神活動に該当するクレーム限定は情報内容を取り込もうと意図するものである可能性があり、従って、自明性についての特許性判断において無視される印刷物であると考えられると判示した。例として、クレーム3に記載される評価に関する限定(一酸化窒素の投与の是非を判断するためにその効能と危険性とを比較考量するという限定)は、クレーム1の情報提供に関する限定(クレーム1の最終2段落)に規定される情報内容を医療提供者に検討させるというものでしかなく、精神活動に該当すると同時に印刷物でもある、との見解をCAFCは示した。精神活動を情報内容に追加したとしても当該クレーム限定は印刷物に該当するのであり、仮に「検討する(“think about it”)」とのステップを規定するだけで情報内容に関するクレーム限定が特許性判断における考慮対象になってしまうのであれば、印刷物の法理自体がないがしろにされてしまう、とCAFCは述べた。

 またMallinckrodtは、情報提供、評価、及び推奨に関する限定が印刷物に該当するとしても、それらはクレーム中の他の限定と機能的に関連しているので、特許性の判断において考慮対象となると主張した。特に、クレーム1のプリアンブル(“A method of providing pharmaceutically acceptable nitric oxide gas”)における「薬学的に許容される」という文言により、一酸化窒素ガスを供給するという実体的なステップに対してクレーム記載の情報が関連付けられている、と主張した。これに対してCAFCは、「薬学的に許容される」の通常の意味は、ガスに付随する処方情報を示すものではなく、ガスの物理的状態のみを示すものにすぎないと判示した。またCAFCは、仮に、一酸化窒素吸入と、左心室機能不全と、肺水腫のような副作用との関係に関する情報が「薬学的に許容される」との用語に黙示的に含まれているとするのであれば、クレーム中で更に明示的にその情報を記載する必要性はない筈であると結論付けた。

 またクレーム9及び11に関して、Praxairは、審判部がクレーム9における中断(“discontinuing”)ステップとクレーム7における推奨に関する限定との間に機能的関係があると判断した際に、文言“in accordance with”を不適切に解釈した、と主張した。それに対してCAFCは、“in accordance with”は“based on(基づいて)”又は“as a result of(その結果として)”の意味であると解釈されるべきである、と判示した。この解釈に基づけば、推奨に関する限定の結果として、医療提供者が治療中止という特定の措置を講じることをクレーム9は規定しているとCAFCは解釈した。この規定は、印刷物とクレームの他の部分との機能的関係を確立し、印刷物を特許性判断における考慮対象とするには十分であるとCAFCは判示した。

 本件記載の判決文は以下のサイトから入手可能です。
本欄の担当
本欄の担当:副所長 弁理士 吉田 千秋
米国オフィスIPUSA PLLC米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 有馬 佑輔

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