• トップ
  • 最新IP情報
  • 著作権のFair Use(公正利用)に関する米国最高裁判所判決(Google LLC v. Oracle America, Inc. (Supreme Court, April 5, 2021))
最新IP情報

最新IP情報

外国の判決・IP情報速報

著作権のFair Use(公正利用)に関する米国最高裁判所判決(Google LLC v. Oracle America, Inc. (Supreme Court, April 5, 2021))

2021年4月5日付で、米国最高裁判所(以下「最高裁」)により、著作権のFair Use(公正利用)に関する判決が出されましたのでご報告申し上げます。この判決において最高裁は、Androidプラットフォームの開発においてOracle America Inc.(以下「Oracle」)がJavaアプリケーション・プログラミング・インターフェースを複製したことは、侵害にあたらない「公正利用」に該当する、と判示しました。

 

<背景>

 OracleはJava SEプラットフォームを所有している。このJava SEプラットフォームを使用することにより、Javaプログラミング言語で新たなソフトウェアプログラムを開発することができる。Javaプログラミング言語は、ハードウェアに依存することなく、デスクトップ・コンピュータやラップトップ・コンピュータで実行することができる。Java SE プラットフォームに備えられたアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)を用いることにより、プログラマは、自らのコードをゼロから書き込んで機能を実現するのではなく、予め書き込まれたコードを利用して自分のプログラムに機能を組み込むことができる。Java APIでは、特定のタスクを“メソッド”と呼び、類似のメソッドを“クラス”にグループ化し、更にクラスを“パッケージ”にグループ化する。Java APIには、プログラマが要求した特定のタスクを実行する方法をコンピュータに伝える実装コード(implementing code)と、Java APIのメソッドをパッケージとクラスとにラベル付けする宣言コード(declaring code)が含まれている。これを例示した以下の模式図では、“max”メソッドを“math”クラスに配置し、mathクラスを“java.lang”パッケージに配置している。

2005年にGoogleは、スマートフォン向けソフトウェアビジネスへの参入を狙っていた新興企業であるAndroid, Inc.を買収した。Googleは、Androidベースのスマートフォンを消費者にとってより魅力的なものにするアプリケーションの開発を支援するため、ソフトウェア開発者が無料で利用できるAndroidプラットフォームを構想した。当時、多くのソフトウェア開発者は、Javaプログラミング言語を理解しており、Java SEプラットフォームを用いて、デスクトップ・コンピュータやラップトップ・コンピュータで使用するプログラムを開発していた。

 Googleは、Androidの買収後、新たなスマートフォン技術開発のために、Javaプラットフォーム全体のライセンス供与に関する交渉を開始した。この交渉が決裂すると、Googleは自分たちでAndroidプラットフォームを構築した。Androidプラットフォームの開発にあたって、Googleのエンジニアは何百万行もの新しいコードを作成すると共に、Java APIから約11,500行のコードをコピーした。この際、実装コードについては、Google独自のものを作成した。宣言コードについては、新APIのパッケージの大半についてGoogle独自のものを作成したが、37個の重要なパッケージに対してJava APIから宣言コードをコピーした。その結果、Googleは、特定のタスクに与えられた名前と、クラス及びパッケージへのそれらタスクのグループ化構造との両方をコピーすることになった。これにより、Androidプラットフォームを使用するプログラマは、特定のタスクを呼び出すためにJava SEプラットフォームにおいて慣れ親しんでいたメソッド呼び出しを用いることができるようになった。ただし、これらのタスクを実行するのはGoogle自身が作成した実装プログラムであった。

 Oracleは2010年に、GoogleによるJava APIの使用は著作権法と特許法との両方に違反しているとして、カリフォルニア州北部地区の地方裁判所において提訴した。Oracleによる特許に関する請求については、6週間にわたる審理の結果、陪審によって却下された。著作権に関する請求について、Oracleは、37個のJava APIパッケージにおいて宣言コードとAPIの組織構造(メソッドをクラス及びパッケージにグループ化した構造)との両方をコピーすることにより、Googleが著作権を侵害したと主張した。この主張に対し、陪審は、37個のJava APIパッケージに含まれる宣言コードと組織構造とをGoogleが使用することは、著作権法に基づく「公正利用」に該当し、侵害に対する責任を免れると判断した。その後、この地方裁判所による決定は連邦巡回控訴裁判所によって覆された。これを受けてGoogleは最高裁に上告した。

 

 「公正利用」法は、合衆国法典第17編第107条に規定されている。第107条の関連部分は以下のとおりである:

批判、コメント、報道、教育、・・・・・学問、研究等の目的での・・・・・著作物の公正利用は著作権侵害には該当しない。著作物を特定の場合に利用することが公正利用に該当するか否かを決定するに当たって考慮すべき事項は、以下を含むものとする。

(1) 利用の目的及び性質(当該利用が商業的性質のものであるか又は非営利教育目的のものであるかを含む);

(2) 著作物の性質;

(3) 著作物全体に対して利用された部分の量及び重要性

(4) 著作物の潜在的市場または価値に対する利用の影響。

 

<最高裁判決>

 本判決において最高裁はまず、制定法における事項の列挙はすべてを網羅しているわけではなく、状況応じて、ある事項が他の事項よりも重要であることが明らかになる場合がある、と指摘している。最高裁は更に、公正利用の概念は柔軟であり、その適用は状況によって変化する可能性がある点についても指摘した。例えば、著作物が事実ではなくフィクションである場合、または著作物が実用的な機能ではなく芸術的表現として機能する場合には、著作権保護はより強力になり得ると述べている。

 最高裁は、公正利用法の4つの事項をそれぞれ分析したが、特に、「著作権で保護された著作物の性質」という第2の事項に着目した。この事項に関連して最高裁は、コンピュータが実行する可能性のあるタスクを、特定の種類のコンピュータが実際に実行することになる実際のタスクの集まりに分割したOracleによる分割の仕方が、Java APIに反映されていると判断した。最高裁は、何をタスクとして扱うかについての決定そのものが著作権の対象になると主張する当事者はいないが、そのようなタスクをラベル付けし組織化する仕方についての決定(例えば、特定のタスクを”max”と命名する、あるいはそれを”math”と呼ばれるクラスに入れるなど)については著作権を主張できる可能性がある、と指摘した。

 また最高裁は、コピーされた宣言コードとコピーされなかった実装コードとは、異なる種類の創造性に基づくものである、と指摘した。例えば、実装コードを記述するには、コンピュータがタスクを実行する速度やコンピュータメモリの想定されるサイズなどを考慮する必要がある、と指摘した。一方、宣言コードについては、直感的に把握可能であり開発者が容易に呼び出すことができるように、設計され組織化されなければならないと指摘した。

 最高裁は、他の多くのプログラムと異なり、宣言コードは、新しい創造的な表現(Androidの実装コード)と著作権の対象とはならないアイデア(一般的なタスク分割や組織化)との両方と本質的に結びついているとの見解を示した。他の多くのプログラムとは異なり、宣言コードが有する価値の大部分が、著作権を有していないコンピュータ・プログラマがAPIのシステムを学習するために費やす時間及び労力の価値に基づくものである、と最高裁は判断した。他の多くのプログラムとは異なり、その価値は、GoogleがコピーしなかったJava関連の実装プログラムをプログラマに利用(および引き続き利用)して貰えるように、プログラマが当該システムを学習し利用し易くすることにあると判断した。以上に基づき最高裁は、実装コードのような大多数のコンピュータプログラムに比べて宣言コードは著作権法の核心から離れており、上記2番目の事項(「著作権の性質」)は公正利用の方向を指し示していると結論付けた。

 また最高裁は、その他の事項も公正利用を示唆するものであると判断した。「利用の目的及び性質」については、GoogleがJava APIを利用することにより新製品を開発し、Androidスマートフォンの使用及び有用性を拡大し、スマートフォン環境における革新的ツールをプログラマに提供しようとしたことを鑑みると、Googleによる複写利用は、公正利用が認められる「新たな表現、意味、又はメッセージを有するように著作物を変容させ、更なる目的又は異なる性質を有する何らかの新しい重要なもの」を付加する行為である、と判断した。「利用された部分の量及び重要性」については、37個のパッケージに対して宣言コードの大部分がコピーされたが、ここでコピーされた11,500行はJava APIのコンピュータコード全体の0.4%に過ぎないとし、11,500行をその数字単独で見るのではなく、大きな全体の一部分として見るべきであるとした。最後に「市場効果」については、GoogleがJava APIの一部を使用していなかった場合にOracleがスマートフォン市場にどの程度参入できたのかを示せる十分な材料はない、と判断した。

 以上に基づいて、最高裁は、GoogleがJava APIを複製した行為は資料の公正利用に法律上該当すると判示した。

 

 本件記載の判決文は以下のサイトから入手可能です。

18-956 Google LLC v. Oracle America, Inc. (04/05/2021) (supremecourt.gov)

本欄の担当
伊東国際特許事務所
所長 弁理士 伊東 忠重
副所長 弁理士 吉田 千秋
担当: 弊所米国オフィスIPUSA PLLC
米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 有馬 佑輔
PAGE TOP